Pseudoromance#12 (ページ26)

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『あの、

同室の住人は部屋から出ていきましたか？』

｢……あ、そうですね。30分ほど前にお見えになったと思いますが｣

『ありがとうございます。』

ストーカー対策もばっちり。改めてこのマンションを選んでよかったと思えた。コンシェルジュは出入りしている人の記録をきちんととってくれているから住人にとっては味方同然。ただ親切に教えてくれるかは人によるけど、

彼は居ない、それだけが分かれば救われる心持ちだった。

花屋で貰った、一輪の花を朝日に照らしてみる。私が悲しげに見えたのか元気になるようにと、花屋さんが特別に百合の花をくれた。

芸能人がよく来るとも言っていたし。宣伝を兼ねているのか、この見かけだけの変装がバレなかったとは思えなくて。

でも私の身元がバレた所で、どうでもいい。

＿＿＿＿これからは人の目に怯えない、強い母親になるんだから。

『……、ふぅ』

リビングテーブルに置かれていた部屋のカードキー。これは紛れもないジョングクに渡していた分のようだ。

こんなに潔く返してくれるなんて、今度こそ彼の中でも見限ってくれたんだろう。

また今回も引越し、だなんて考えも頭を過ったが。どんな形であれ別れは。心に残った傷跡を癒してはくれない。

『……、はい今からですか？、準備します』

だけど、こんな時こそ仕事に没頭する。新しいCMの打ち合わせがあるらしい。最初はリモートで、と言っていたのだが。クライアントがどうしても私に会いたいと懇願しているとのことで。

急遽、会社に出向くことになった。

ダボッとした服を着るのも習慣となって。一部SNSでは太ったと囁かれてる私。食生活に気をつけていても、これは致し方ないことだと戒めてはいるが、過剰な記者による攻撃は体が悪くなりそうで、

一切SNSを更新しなくなった。

久々に会う社長には常に体調を気遣ってもらって心配させたくないし。ジョングクとのことも話さないと、

私達の為に婚姻届を用意してくれた社長が言った「結婚おめでとうは、まだとっておくわね」＿＿＿＿恩義が、もうすぐ灰になるから。